ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



幅広い知識、優れた技術を携えて、医学系大学日本一と言われる大学の教授まで昇り詰めた彼。
そんな彼だからこそ、俺の醜いその感情を見逃してはくれず、お互いの視線がぶつかった。

彼はその視線を俺から逸らそうとせず、俺の瞳の奥を覗き込む。


多分、俺の気持ちなんかお見通しだろう
自分の実力が足りないことを自覚している俺なのに、彼のことを羨ましいと思ったことを

伶菜のために何ひとつしてやれなかった自分が
情けないと思っていることを

そして

あの人に憧れ、大切な存在を守りたいと言い、大学進学を機に東京を離れ、名古屋へ行く選択をした自分
そんな自分が彼に何も成長していないと思われているのではないかと残念に思ってしまったこと
・・・そんな気持ちを



そういう現実から逃げてはいけない
そう思った俺は自分に向けられている彼の視線から目を逸らさなかった。

すると、力強い眼差しで頷いてくれた彼。

その顔は俺に
”尚史がしっかりと考えた上でそうしたいと思ったのならば、その道に進んでいけばいい”
彼が過去に俺へ言ってくれたその言葉を想い起こさせてくれた。



俺がそうしたいと思う道
それは
産科医師として憧れているあの人が追い求めていた医療を自分が追求すること

それと
大切にしたい存在を探し出し、そして、それを守り抜くということ


彼の力強い頷きによって
”それらをやり抜け”

目の前にいる彼に改めてそう言われているみたいで
俺は心強くなった。