ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




キミと俺は・・・の先の言葉は・・・?
そう口にしたいけれど、彼の切なそうな顔を見てしまったせいで口にはできない


『もしも・・・もしも言いにくいんだったら言わなくてもいいです・・・先生。』


日詠先生は目を閉じながら首を強く横に振った。
余程緊張しているのかな?
彼の喉元にグッと力が入ったのが外見からでもわかった。



「・・・そんなコトない。」

『・・・・・・・・』

「キミと俺は・・・・キミが1才になるまで一緒に暮らしていたんだ。親父が亡くなった時まで一緒に居たんだ。」

私にそう告げた日詠先生の瞳の奥は切なさと懐かしさが交錯しているように見えた。



『1才まで一緒にいたんだ・・・私、母親から兄がいるなんて聞いたことなかった。』

驚きのあまり心の中で呟くべき言葉を口にしてしまった私。


「・・・・・・・」

『先生はその後、どうしていたのですか?』


何が真実で何が嘘なのかわからなくなってきていた私は後先なんか考えることなくそう尋ねる。

無神経な私のその問いかけがこの後、日詠先生の深い深い心のキズに触れていたなんて、この時の私は予測すらできていなかった。
だから私は彼の言葉の続きにそのまま耳を傾けてしまった。



「俺はその後、今の日詠の家に引き取られたんだ。親父みたいになりたくて・・ただ親父みたいになりたい一心で高梨の家を出ることを選んだんだ。」


親父みたいになりたいって
日詠先生の言う”親父”って

東京の日詠先生のコト?
それとも
私のお父さんのコト?


でも私のお父さんは
”プラネタリウムの研究員” だったってお母さんが言ってたから

現在、日詠先生が医師になってるというコトは
彼が指している ”親父” は東京の日詠先生のコトなのかな?


そういえば、日詠先生が自分の人生を左右するようなそんな大きな選択をしたのは、彼がいくつの時だったんだろう?

そんな重大な選択をしたのはいつ?



『先生、それって先生がいくつの時でした?』

「8才・・・俺、その時8才だった。」

『8才・・・・』


8才なんて、そんな・・・・・
亡くなってしまったお父さんは仕方ないにしても
その頃はまだ生きていたお母さんと親子の縁を切って、他人と暮らすなんて
私にはとても想像ができない