「これか?1階にある売店の電子レンジで温めて持ってきたんだ。」
『売店ですか・・・そのマグカップ、私が名古屋で入院していた時に先生がそれにホットミルクを入れて持ってきてくれたものですよね?』
「・・ああ」
照れくさそうな笑みを浮かべた日詠先生だったけれど、ちゃんと噛み合い始めた会話。
『わざわざ、名古屋から持ってきてくれたんですか?』
「ああ。紙コップじゃなんか味気ないかなって思って・・・・」
私の為にそんなコトまで気を遣ってくれるの?
日詠先生らしいな・・・その優しさ
私は一児の母親になったばかりなんだし
手術は成功したからとはいえ、まだ安心できない赤ちゃんがいるし
彼が自分の兄というのが本当ならば
彼を好きになっちゃいけないってわかってはいるけれど・・・・・
私はやっぱり日詠先生のことがスキ
自分の抱いた疑問を少しでも解決するために投げていた変化球。
それはいつの間にか、自分は彼のコトが好きということを再確認してしまうという”エラー”を引き起こしてしまっている。
それに気が付いた私は横道に逸れてはいけないと再度、自分の疑問を解くための”変化球”を投げ始めるために彼に向かって自分の右手を差し出した。
『先生、それ、飲みたいです。』
「冷めちゃってるけど・・飲むか?」
日詠先生はマグカップの温度を自分の手で確かめた後にゆっくりそれを私に向かって差し出してくれた。
『ハイ』
私は一瞬だけ目を閉じた後に、すぐに目を開け微笑みながらそれを受け取ってそっと口をつけた。
やっぱりあの味がした。
『おいしい・・・先生、コレ、ほんのり甘いけどどうやって作ったのですか?』
懐かしいあの味を再び口にした私は彼に再度 ”変化球” を投げる。



