「凄く、待たせてしまってゴメンね。祐希クンもお母さんもよく頑張ったね。」
『い、、いえ。』
とめどなく溢れる涙を堪えられない私は、丁寧なお礼の言葉を発せられずに深々と頭を下げることしかできない。
「また、後で・・・そうだな、15分位したら祐希クンに面会できるから、ちょっと待っていてね。」
東京の日詠先生はそう言いながら、お礼すら言えなかった私にまたもや優しい微笑みを投げかけてくれた。
それに対し私はなんとか今、自分が出せる精一杯の笑顔で頷いた。
そんな私の頷きを見届けてくれた東京の日詠先生の表情は一瞬にして真剣なものに変わる。
その視線は私の後方へ移ったまま、暫くの間、動きを成すことはなかった。
その後も、東京の日詠先生は言葉も発することなく、目を閉じ、ゆっくりと頷く。
そして、再び私の方に視線を移し会釈をくれた後、集中治療室の方へ向かって歩いて行った。
その姿を見届けた私がついさっき東京の日詠先生が視線を向けていた後方を振り返ると、そこには私の主治医だった名古屋の日詠先生が立っていた。
彼の視線は私がじっと見つめているにも関わらず、東京の日詠先生が入って行った集中治療室の方を向いたまま。
その瞳には力強さも鮮やかさもなく、気のせいか、寂しそうに見えた。
私はそんな彼を見て
彼と東京の日詠先生との間の決して目には映らない ”壁” を感じられずにはいられなかった。
彼と東京の日詠先生は親子らしいのに
どうしてそんなにも二人の距離は遠いの?
いったいどうして・・・?
もしかして
もしかして・・・・・
東京の日詠先生が名古屋の日詠先生の父親というのは
・・・嘘?
嘘ってコトもあり得る
名古屋の日詠先生は自分は ”私の兄” だって言ってたから
でも
東京の日詠先生と名古屋の日詠先生
彼らのあの微笑み方も
あの涙の拭い方も
凄く似ているような気がする
それに東京の日詠先生が嘘をつく理由が全く思い浮かばない
やっぱり二人は親子かもしれない
じゃあ、名古屋の日詠先生が嘘をついてる?
何のために?
私と祐希を助けるためのメスを握ることができないぐらい
医師としてのプライドを捨ててまで自分は私の兄だというのはなぜ?
その理由もまったく思い浮かばない



