『いた・・・・』
だから、家族待合室でひとりぽつんと過ごす伶菜を遠目で見つけてもすぐには声をかけられなかった。
殆ど食べていない開封済みのサンドイッチ。
俯いたままの彼女の視線とは無関係に流れているお笑い番組。
ただでさえ体も心も不安定な状態になるやすい産後間もない状況の彼女が背負うには大きすぎるプレッシャー。
それを感じずにはいられない。
だから、彼女ひとりでこの時間を過ごさせることに耐えられなくなった俺。
でも、このまま足を踏み入れる勇気がまだ持てない俺は、右手にぶら下がったままの紙袋をグッと握り締めながら売店へ向かった。
『よかった。電子レンジ、あった。』
電子レンジで温めたものを手にしながら再び家族待合室に向かう間も、頭の中では自分がどうしたらいいのか葛藤し続ける俺。
彼女と俺
彼女の子供の手術の待ち時間をふたりで過ごすこと
気の利いた言葉なんて言ってやれないかもしれない
でも、こういう時
自分ひとりじゃないという人の気配というものがプレッシャーという重い空気の流れを変える
・・・俺はそう信じたい
だから、1ヶ月前の電話で声が聞けて嬉しいと言ってくれた彼女の言葉を信じるんだ
『コレ・・・飲むか?』
俺はそう願かけて、売店から大切に運んだマグカップを俯いたままの彼女に差し出した。



