ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




『今日は夜間出入り口まで行かなくても、ここから入れる。』

”東京医科薬科大学附属病院” という立体文字看板がドアの上に掲げられている出入り口から建物内部へ入る。


眩しいぐらい明るい廊下。
ベンチに腰掛けることができない人もちらほらいるぐらい受診患者で混雑している外来診療エリア。
あちこちで道案内をしている事務職員達。
救急搬送を終えたらしい救急隊員達。

昼間の大学病院は静けさとは程遠い場所だ。


前回来た時、薄暗い中、手に持った懐中電灯の灯りを頼りにたったひとりで廊下を歩き回っていたガードマンは夜間専門職員なのか、今は見かけない。

今回は産科病棟に向かわず、ICU(心臓血管外科集中治療室)のすぐ近くにあるらしい家族待合室に向かった。



手術中、患者の家族が待機する待合室。
それが設置されているフロアはとても静か。
エレベーターを降りるとすぐに病室が見える一般病棟とは異なり、ICUと書かれた分厚い自動ドアが病棟の慌しい空気を掻き消しているように思われる。

本当に人けが感じられないこのフロアで生死と背中合わせの手術が終わるのを待っている伶菜がひとりで待っているはず
・・・そう思うと、心がずんと重くなる。


『家族が手術を受けるとか・・・どういう気持ちなんだろうな。』


そんな彼女を主治医を降りた自分が訪ねることが正しいとは思えない
電話では声が聴けて嬉しいって言ってもらえたけれど、こんなところまで来てその想いが拭い切れていない自分がいる