妊娠高血圧症候群に罹患している伶菜のカラダの状態を具体的に聴きたい
生まれた新生児の体調がどうであるかも聴きたい
そう思っているのに、出てくるのは
無事に生まれたって?とか
よかったとか
・・・そんな専門性ゼロの言葉ばかり。
彼女の主治医という立場から逃げてしまったという事実が
俺にそうさせてしまっているのかもしれない
まずはその事実を犯したことをちゃんと謝るべきだろう
『ゴメン。俺、キミを・・キミの赤ちゃんを自分の手で助けてやれなかった・・・・約束したのにな・・・・』
言葉にして改めて思う
俺は彼女を傷つけたんだ・・と
受話器を介して聴こえてくる彼女のすすり泣く声。
それによって俺の心も酷く痛んだ。
『ゴメン。俺、泣かせちゃった・・・』
福本さんに伶菜を泣かせるなって忠告されていたのに
大切にしたくて、守りたい人
その人をこうやって傷付けて
俺がやること、全て空回りだろ・・・
『違うの・・・・ち、、が、、う、、、、の。先生の、、、、声が、、、聞けて、、、嬉し、、、かったの。それに、、、それに・・・・』
声が聞けて嬉しかった
それは俺のほうだ
空回りしている俺の心にその言葉がじわじわと浸み込んでゆく
そうやって彼女とちゃんと話ができるのか不安だった状態から少し解放された俺は、息も絶え絶えな状態でそれを伝えてくれる彼女の体のほうが心配になる
「それに、先生は、、、私も、、、私の赤ちゃんもちゃんと、、、ちゃんと助けてくれたじゃない、、、3回、、、も・・・」
『3回?』
彼女を助けた覚え
俺の中では2回しかない
電車に飛び込もうとした彼女の腕を強く引いた
病院屋上から飛び降りようとした彼女を体ごと引き寄せた
・・・その2回だ
「そう・・3回・・・2回は先生もわかっているはず。私が死のうとした時。」
『もう1回は・・・・?』
2回は間違っていなかったようだ
でも、3回のうちのあと1回
それが正直、思い出せない
「もう1回は、超音波検査で私の赤ちゃんの心臓の異常を見つけてくれた時。」