今、なんて言ったんだ?
俺の聴き間違い?
それとも、福本さんの言い間違いか?
「伶菜ちゃんにナオフミくんの携帯番号、教えておいたけど、良くなかったかしら~?」
『・・・・・・?』
今、また、言ったよな?
伶菜って
『福本さん、伶菜の携帯番号ってわかります?』
「あっ、ごめ~ん。聴いておくの忘れた。」
『忘れたって、そんな・・・。』
ただ伶菜からの電話を受けただけ
彼女の電話番号を聞いておかなくてはならない立場ではない福本さんについ溜息をつく。
彼女からの電話
次にいつ来るかわからない
もう来ないかもしれない
もしそうなら、自分から彼女に電話するしかないのに
その手掛かりもない
悉くすれ違う
俺と伶菜は
そういう運命なのか?
新笠寺駅で彼女を見つけたことこそ
運命だと思っていたんだが
何、やってるんだ、俺
「でも、カルテの中にあった電話番号、拾っておいたけど、いる?」
運命という言葉と向き合っている最中の俺の目の前で小さな白い紙がひらひらと踊る。
ちらつく数字の羅列
電話番号?!
伶菜のものなのか?
「後のほうがいいわよね~。集中力、切れてる状態だし。」
その白い紙を手に取って確かめたいという俺の意志を無視するかのように、伸ばした左手は空を切った。
それでも諦めきれない俺は
『・・・下さい、それ。』
丁寧に頭を下げた。
「もう泣かせるんじゃないよ・・・伶菜ちゃんのこと。」
ようやく俺の気持ちが伝わったのだろう
さっきまでのニヤケ顔が別人だったかと思えるぐらい福本さんは真剣な眼差しで俺の目の前にあの小さな白い紙をもう一度差し出した。
今度はひらひらと踊らせることなく、まっすぐに。
ようやくそれを手にした俺は医局のロッカーにある鞄に入ったままの私用の携帯電話を取り出して握り締め、屋上へ急いだ。