『こんな夜分に申し訳ありません。私、名古屋南桜総合病院で産科医師をしている日詠と申します。』

「名古屋から・・・わざわざ・・・・」


手術着姿にも驚いた様子だったが、それ以上に名古屋から出向いたことにも驚いているようだ。



『勤務明けに直接こちらに向かったので、こんな時間になってしまいました。申し訳ありません。』

「・・・それは遠方からご苦労様です。」

呆気にとられた様子で俺の名札を凝視する目の前にいる看護師さん。


「あの・・・失礼かもしれませんが、先生はウチの大学の日詠教授にご関係があったりします?」

手術着姿と名古屋だけでなく、日詠という苗字にも驚きを隠せない様子の看護師さんはおどおどしながら俺にそう問いかけた。


父さんに会いに来たわけじゃない
だから、別に彼との関係を明らかにする必要なんてない
でも、ついさっき、ガードマンに嘘とついてしまった後味の悪さ

『ええ、一応、自分は彼の息子ですが。』

それらによって俺は看護師からの問いかけに対し正直に答えた。


「やっぱり・・というか、息子さん、産婦人科の先生だったんですね~。」

『・・・とりあえず産婦人科でやらせてもらっています。』

「いや~なんか嬉しいです。あたし、職種は違うんですけど、日詠教授に憧れて心外科病棟配属を希望していたんです。でも希望者が多すぎてそれが叶わなくて・・・でも息子さんと同じ産婦人科・・・素直に嬉しいです!!!」

『・・・・・・・・・』

小声だが明らかに声のトーンが上がった看護師さんに俺は愛想笑いで応えることしかできない。


「日詠教授のご子息がこんなところにいらっしゃるということは、もしかしてウチの大学の産婦人科へ・・・ということですか?」

声のトーンが上がったままの看護師さんの話の飛躍ぶりが凄い
でも、話をその方向に持っていかせているのは、俺の今の外見のせいだろうか?

でも、俺は名古屋から離れるつもりはないし
日本一の医療を提供すると言われるこの大学病院で従事できる能力なんかもない

だからちゃんと否定しておかなきゃな