過去に数回、足を踏み入れたことのあるこの場所。
深夜と早朝の狭間の時間帯であることもあり、正面玄関は真っ白なスクリーンカーテンで中の様子が見えないように配慮されている。
そこのドアにかけられた”夜間入り口”の矢印看板を辿って建物の中へ入った。
「緊急対応、ご苦労様です!!!!!」
建物の入り口でわざわざ制帽を外して挨拶してくれる年配の男性ガードマン。
その存在に、自分がまだ手術着姿のままであることをまた忘れていたことに気がついた。
ウチの病院から飛び出す形でここまで来てしまったので、勿論、着替えなんてない。
『・・・いえ、その。』
「ん?その名札、ウチの大学の方ではないですね・・・もしかして外部から研修にいらっしゃっている先生ですか?それともウチの大学の医局から派遣されているとか?」
ここにいる人に届け物をしに来たなんて言ったら、昼間に来いと言われるのではないか?
そう思った俺は、
『・・研修ってトコです。』
咄嗟に嘘をついてしまった。
それなのに目を細め、うんうんと頷いてくれた貫禄もあるガードマン。
「夜間も研修、お疲れ様です。行ってらっしゃい!!!!!」
事実とは異なることを答えたのに、声援を送られ・・・自分がしたことに申し訳なさを覚えながら建物の奥へ向かった。
薄暗い廊下で辺りを見回しながら前に進む。
見つけたエレベーターに乗り込み、フロアガイドで目的地を探し、その階のボタンを押す。
チン♪
真夜中の病棟に響き渡ってしまいそうなエレベーターの到着音。
ガードマンを欺いてしまったけれど、やはりそこは同業者。
「あの・・・先生の病院からウチの病院へどなたか患者様が緊急搬送されましたか?」
エレベーターを降りたばかりの俺が部外者であること
・・・近付いてきた産婦人科病棟の看護師はそれを一目で見破った。



