駐車場でクルマから降りて大学病院の建物を見上げた瞬間、ハッとした。
『今更だよな・・・・』
タイミングを見て勢いで走り始めた俺が、本当にここに来てもよかったのかということをこの時初めて感じたからだ。
『彼女に合わせる顔なんて・・・』
伶菜とは、この大学病院への転院を勧めたあの日から会っていない
しかも、俺は彼女に自分は兄という存在であることを明かし、困惑する彼女の目の前から消えた
本当なら俺はもう彼女に会う資格なんてない
けれどもあの時からここまで俺の背中を押してくれていたのは
あの時、診察室から聴こえてきた伶菜から俺へのメッセージ
たった”それ”だけ
けれどもダメになりそうだった俺をここまで支えてくれていた”それ”
”それ”だけで俺は
勢いでここまでこれた
でも、実際に彼女がいるはずのこの建物を間近に見た俺は
彼女は俺に会いたくないのでは?
それぐらい俺は彼女に対し酷いことをしてしまったのだから・・・
今更ながらそんなことを思ってしまう
『ホント、今更だよな。』
散々考えた挙句にその想いを頭から消し去ることができなかった俺。
せめて彼女はひとりではないということを彼女自身に感じてもらうだけでもいいからと
持参したカトレアの紙袋を病院職員に託し彼女に届けてもらえばいい
そう心を決めた俺は一歩前へ進むことを怯んでいた自分の一歩を何とか前に出すことにした。



