【Hiei's eye カルテ14:朝陽に繋がる道 】




『時間がないから、急ぐか。』


午後7時半すぎ。
自分のクルマのトランクに入れたままであったカトレア模様の紙袋を助手席に載せ変えてからエンジンをかける。

帰宅ラッシュの時間帯を少し過ぎたせいか、高速道路に繋がる幹線道路の流れは比較的良好。
高速の渋滞状況を表示する電光掲示板が真っ暗であることにも安堵し、インターチェンジに進入する。

そのまま高速道路本線に進入しようとアクセルをグッと踏んだ瞬間、

『本当に東京に行くんだ・・・俺。』

クルマのハンドルを握っている自分自身に初めて驚いた。



東京医科薬科大学から届いた一通の出産を知らせるメール
それを確認してから
・・・病棟の患者さんの様子
・・・勤務しているスタッフの対応能力
・・・自分の勤務予定
それらを確認し、ここだと思ったタイミングで思い切って走り出した俺だったから。


『弾丸ツアーとか、TVの世界だけの話じゃなかった・・・』


大学進学を機に東京から名古屋へ転居してもう随分長い年月が経つ
お互いに多忙であることをいいことに、東京にある実家にはしばらく帰省していない
東京で学会があってもわざわざ実家に寄ることもない
東京で開催される研修会に行く時だって新幹線で移動するので、クルマで移動したりはしない

そんな俺がクルマで東京を目指すのも、明日朝の出勤時間までに名古屋まで戻らなくてはならないから。