病室へ戻る道中、何度も泣きそうになった。
なんで怖がらずに勇気を出して赤ちゃんを抱っこしてあげられなかったんだろうと思って。
けれども、泣くと自分はもっと弱くなってしまいそうな気がして一生懸命泣くのを堪えた。
帝王切開した手術の痕の痛みと今にも流れ落ちてしまいそうな涙を堪えながらようやく病室へ戻ると、ドアの取手には紙袋がかかっている。
なんだろう?と紙袋の中を覗いてみると
黄色のリボンがかけられた箱が1つだけ入っていた。
その箱を手に取り、これは何だろう?とじっと眺めているとちょうど看護師さんが通りかかり、私に声をかけた。
「高梨さん、それ、今朝早くに背の高い男性からお預かりしました。」
『・・・・えっ?』
「高梨さん、眠っていらっしゃってて。起こしましょうか?ってその人に言ったら、”心配な患者さんがいるからもう帰らなきゃいけないから” って言いながらお帰りになってしまったんですけど・・・・・」
心配な患者さん?
お医者さん?
『あの、その方って日詠先生ですか?小児心臓血管外科の・・』
私は首を傾げながら、自分に関わりのある男性のお医者さんの名前を挙げた。
「いいえ。心臓外科の日詠先生じゃありません。だって、その男の人、ウチの病院の手術着じゃなく、緑色の手術着を着ていらっしゃいましたから。ウチの手術着は青色ですしね、あっ、ちょっとゴメンなサイ・・・」
話の途中で看護師さんのナースコール用のPHSが鳴り、看護師さんは会釈をした後にコールされた部屋の方へ行ってしまった。



