ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



鼻のチューブも
点滴の針も
血圧計のベルトも

そして
”タカナシ レイナ ベビー” というネームバンドも

何もかもが小さくて
それらを使って頑張って治療を受けている赤ちゃんの姿を見た私はなんともいたたまれない気持ちになった。



キンコーン、キンコーン、キンコーン、キンコーンーーーーーーーーーー



私の赤ちゃんの頭上にも設置されているモニター。
おそらく心電図の波形が映し出されているそのモニターからもその甲高い音が聴こえてきた。


どうしよう
どうしよう
誰か
誰か、だれか
早く来てーーーーはやくーーーーーー



パニックに陥りかけていた私は全身が震えて声すら出ない状態。

「大丈夫ですよ。」

モニターの警告音を聞きつけた看護師さんが赤ちゃんの様子を素早く確認しながら私に声をかけてくれた。


「お母さん、赤ちゃんを抱っこしてみますか?」

『えっ?!・・・抱っこ・・・してもいいんですか?』


モニターの警告音が鳴っていた事によって赤ちゃんの状態がかなり悪くなってしまったと思い込んでいた私。

自分が赤ちゃんに触れてはいけないのでは・・という思いが強く小声で看護師さんにそう尋ねた。


「ええ。できますよ。」

看護師さんは何本もつながっている点滴の管を引っ張り上げながら赤ちゃんを上手に抱き上げて、私に赤ちゃんを手渡ししようとした。

その瞬間。

産まれて間もない赤ちゃんを抱っこした事がない上に、さっきのモニター警告音を聞いて赤ちゃんの状態が悪いのではないかと思った。

それによって再び抱いた ”怖い” という感情。
そのせいで、赤ちゃんを受け止めようと差し出した両手をすうっと引っ込めてしまった。


「まだ、抱っこするの大変ですかね?・・・ゆっくり、ゆっくりやっていってあげれば大丈夫ですから、焦らなくてもいいですから。」


私の心の動きを察したのか、その看護師さんは私を諭すようにそう言いながら、赤ちゃんを再びそっと彼女の胸元に引き寄せた。


そして私の赤ちゃんは
母親である私の手ではなく、看護師さんの手によって小さな白いベッドに寝かされた。


私は暫くの間、その小さな白いベッドの上に寝かされた我が子をじっと見つめる。
抱っこしてあげる勇気がなかった自分の不甲斐なさに溜め息をつくばかり。
そしてその場にいるのもいたたまれなくなった私は我が子の小さな手を握りながら

『ごめんね・・・ゴメン。また・・来るね・・・』

そう囁き、病室へ戻った。