ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




『実はずっと目標にしてきたんです。』

「アイツのような医師になることを・・か?」

名古屋行きを不思議に思うどころか、名古屋行きを希望する理由までもを理解している父
適当なことを口にしても、父には通用しない

だから、ちゃんと話すべき
そう思えた


『・・・・彼が目指した産科医療がどういうものだったのか・・・?それを同じ場に立って考えてみたいんです。それと・・・』

「・・・・・・・・・」

『自分が大切にしたい存在をも探したいんです。』

「そうか・・・・・」


俺の思い込みかもしれないが
この時の父は少し寂しそうな顔を覗かせたような気がした。


息子なら、父親の背中を追いかけるように心臓血管外科医師になるべきなのかもしれない
たった3人という家族で過ごすことを大切にするべきかもしれない

父にこういう顔をさせているのは
俺の心に居座り続ける譲れない想いのせい


『尚史がしっかりと考えた上でそうしたいと思ったのならは、その道に進んでいけばいい・・・僕はそう思うけれど、早紀はどう思うかい?』

「・・・私もそう思います。」


父と結婚してからも暫くは循環器内科を専門とする勤務医だった母
彼女にも苦しそうで寂しそうな顔をさせているのも
譲れない想いのせい

そして

ふたりと俺の間に作ってしまった
目には見えない心の壁のせい

譲れない想いを少しでも変える事ができれば
心の壁を少しでも崩すことができれば
ふたりにこんな顔をさせずに済むかもしれないのに


なんで俺はそれらを上手くやりこなすことができないんだろう?

こんな不器用な俺だから
大人になった今でも、そんな想いを拭い去れていないんだ