ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋





それはもう十数年もの前の話。


「あけましておめでとう。」

『おめでとうございます。』


大学病院の外来部門・緊急患者以外の手術部門。
そこで従事している父親が正月だけ、たった1年に1度ゆっくり休める時。

おせち料理が所狭しと並ぶ食卓。
忙しくてなかなか顔を合わせる機会が少ない俺と両親が揃い、ゆっくりできる元旦の朝。
毎年の日詠家の正月の光景だ。



「大晦日の昨晩も遅くまで勉強してたみたいだな。」

『もうすぐセンター試験なので。』

でも俺が18才になった正月。
その時はいつもの光景とはちょっと違った。


『あの・・・・父さん。』

その時の俺は食べていた雑煮の入っている汁椀を机の上に置き、背筋を伸ばす。


「改まってどうした?」

『父さん、俺・・・・名古屋へ行きたいです。』

俺からのいきなりの ”名古屋行きたい宣言” に、同じ雑煮を食べていた父はその汁椀を手に持ったまま眉をしかめた。


「センター試験前に旅行か?余裕だな。まあ、それぐらいのほうが息抜きできていいかもな。」

『旅行じゃありません・・・・名古屋医大に行って、産婦人科医師になりたいんです。』

「名古屋医大・・・か。」



自宅は東京都内
父は東京医科薬科大学の第一外科心臓血管外科教室の准教授

二次試験どころか、まだ大学入試センター試験すら受けていないのに、名古屋医大に行って産婦人科医師になりたい
そんな風に息子に言われれば、父が不可解に思っても仕方がないだろう