産まれたんだ・・・私の赤ちゃん
帝王切開だから、いきむ苦しみみたいなものは感じなかったけれど
ちゃんと産まれたんだ


「2856グラムの男の子よ・・・おめでとう!」

産科医の坂上先生が産まれたての赤ちゃんを両手で抱えながら私の顔の近くまで運んで来てくれた。


『先生・・・?赤ちゃんに触れてもいい?』

「勿論!アナタの赤ちゃんだもの。私、ちゃんと支えているから、胸に近づけるね!」

坂上先生はゆっくりと私の胸に赤ちゃんの肌を寄せてくれた。



「こうやって肌を寄せ合うのをカンガルーケアって言うのよ。肌を寄せ合って親子だという絆を深めていくのよ。」

坂上先生は私の耳元でそっと囁いた。
胸元に寄せてもらった赤ちゃんはほんのりあったかくて・・・気持ち良かった。


その瞬間、私は
今まで生きて来た中で味わったことのない幸せな気持ちに包まれ、母親になったんだという実感がじわじわと湧いてきた。

そして私の頬には温かい涙がこぼれ落ちた。



「よく頑張ったね。」

『ありがとうございます。本当に良かったです。』

「もう少しこうやって触れ合わせてあげたいけど・・・・この子、今からすぐに命をつなぐ点滴をしなきゃいけないから・・・お預かりするね。キミが頑張ったから、今度は僕が頑張る。後は、ベビーのコトは僕に任せて!!!」


東京の日詠先生も青い手術着の格好で私の目の前に現れ、私の頬に流れる涙を親指で拭った後に私の胸の上にいた赤ちゃんを優しく抱き上げた。


「この涙、嬉し涙だって信じている。」

『・・・・ハイ。』

「今度はこの子の心臓手術後に同じ涙を流させてあげないとね。」

『・・・・ええ。』


涙の拭い方が名古屋の日詠先生と全く同じである東京の日詠先生は、私に赤ちゃんの顔を見せてくれた後に赤ちゃんを抱いたまま私の前から消えた。

そしてここから私と赤ちゃんの新しい闘いが始まった。