ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




『・・それなりに、まあ・・・・僕も身近な人に子供が生まれたばかりなので。』

「そうなんですか。ベビー靴もいろいろありますから選ぶの楽しいですよね。」


わざわざ俺が選ばなくてもいい
伶菜の欲しいものがいいんだ


『・・それでいい・・・・どこに売ってるんだろう?』

「それ?もしかして伶菜が欲しいって言った靴のことです?」


しまった
うっかりつぶやいてしまった


『・・・・・いや、それはその。』

「名古屋駅前にある・・紙袋にカトレア模様が描かれた百貨店・・だったかなぁ。」

『カトレア・・・』

「でももう売れちゃっているかなぁ。」


今、何時だ?
午後5時半か
今日は外来診察が終わったら、珍しくこのまま仕事を上がれるはず



「それじゃ、日詠先生、また2週間後来ればいいですか?」

『そうそう、2週間後に結果をお伝えします。』

よし、これでもう終われそうだ



「日詠先生、あと・・・」


まだ、何かあるのか?
本当は今すぐにでも名古屋駅前の百貨店に向かいたいんだが

でもそれは完全に俺の都合だな
患者さんの言葉にはちゃんと耳を傾けなくては



『どうしました?杉浦真里さん。』

「フルネームとか笑える・・・・あっ、そのベビー靴は靴売り場じゃなくてベビー用品売り場にあったな~って。」

おかしくて堪らない様子の患者さん。


確かに俺は今日の自分の言動が可笑しいと自覚している
だから笑われても仕方がないだろう


「早く診察、終わってもらったほうがよさそうですね。また来ます~♪」

最後に意味深な笑みを残して、患者さんは診察室から出て行った。



『よし、本当に終わった。』

その意味深な笑みになんか気を取られているわけにはいかない

だって俺は急いで行かなくてはならない用事があるのだから


『佐々木さん、それじゃ・・・』

「日詠先生、お疲れ様でした。」


俺の焦る気持ちが伝わったのか
いつも診察終了後に他愛のない話をしてくる佐々木さんがこの日は俺を早々と解放してくれた。

その足で俺は名古屋駅にある百貨店に向かったのは言うまでもないだろう。