「日詠先生?私、東京に行く。先生にお腹の中の赤ちゃんを取り上げて貰えないのは残念だけど・・・・頑張ってみる。だから、先生も私みたいな妊婦さんの為にちゃんとメスを握って・・・ちゃんと、その神の手を差し伸べてあげて・・・」





伶菜の力強いその語りかけで蘇った。

8才の時
生まれ育った名古屋を離れ、たったひとりで東京へ向かう俺の手を
彼女の小さな手でギュッと握り締めてくれた時の光景が・・・

いつかキミを守る
そう心に誓ったあの日

そして、今
俺はまた
彼女に背中を押してもらってる


自分の弱さ
それを彼女に守られている

俺はそんな彼女を守ってやれるようになるのだろうか?



「福本さん・・・私がこの子の為に今、できること、やるべき事って何かな?」



いや、守ってやれるようにならなきゃな

どんなやり方でも
今度こそ俺の手で
大切な彼女のことを・・・・


頬に流れ落ちてしまった一粒の涙の跡を手の甲で拭った俺はようやく地についた足で新しい一歩を歩み始めた。


彼女のために今、
日詠 尚史という人間ができることを探し出すために。