「日詠先生。私、ね・・」


隣の外来診察室から聞こえてきた伶菜の声。
俺に語りかけるようなその声に、俺の体が思わずビクついた。


彼女の前から消えてしまった俺
その俺がこうやってまた彼女の声を聴くことができるとは思ってもみなかった

でも、応えるわけにはいかない
俺は彼女から逃げてしまったのだから

そんな酷いことをしても、伶菜のことが気になる俺
せめて今のこの状況から逃げたくない
こういう状況で背中にくっついたままのドアの存在がせめてもの救いだ

彼女から逃げたけれど
彼女のことがやっぱり気になる俺の存在を隠してくれるから


これがなかったら
伶菜が俺に語りかけることも
俺が自分に語り掛ける彼女の言葉の続きを聞く勇気
それらもなかっただろうから・・・・

だから、伶菜がどんなことを自分に語りかけても
全て受け止める

それが主治医ではなくなった俺が彼女にしてやれる唯一のことだから