そう戸惑う俺がもたれかかっているドアがガタッと突然揺れた。

慌ててドアから背を離すとドアが開き、そこで奥野さんが立ち止まって俺をじっと眺める。
そして彼女は後ろを振り返り、”じゃあね、伶菜ちゃん♪” と声をかけてドアを閉めた。


再び俺に視線を寄せる奥野さん。
近付いてくる視線がどこか痛い。


「あたしができるのはここまでだから。」

吐き捨てるようにその言葉を口にした奥野さんにすれ違い様に肩を叩かれた。


”ここまで” どころか

伶菜に対する
内診のことへの説明も
俺が出産に関われないことへの説明も
自分の口からではなく、奥野さんに甘えてしまった

彼女の兄という立場だからできないとか
それは完全に言い訳だ
医師としてやらなければいけないことを何ひとつやれていない

伶菜を救えなかった自分が
自分がしなきゃいけないことを何ひとつできない自分が
このまま医師でいる意味があるのだろうか?

このままじゃきっと
伶菜だけじゃなく
他の患者さんも救えないんじゃないだろうか?


そんな自分は
医師として
もうこの場所に立っていられないんじゃないだろうか・・・