ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



先に診察室に戻っていた奥野先生は患者さん用の丸椅子に腰掛けるように私に勧めてくれた。
ついさっき、診察室を出て行った看護師の福本さんも手に薬の入った袋を持って戻って来た。
そして、私は丸椅子にそっと腰掛ける。


「さて・・・話なんだったっけ?ああ、なんで今まで内診だけ私がやってたかって事だっけ?」

私は小さく頷いた。


「ああ・・・そっか、そうだったっけ?」

目を逸らしながらそう呟く奥野先生。

このままだと話をはぐらかされる
そう思った私はその前に手を討つことに。


『日詠先生は最初から私の出産を見届けようとしてなかったんですね?結局、自殺しようとした私を偶然助けちゃった手前、主治医になっちゃっただけですよね?』

わざと投げやりな言い方をする私に、奥野先生はようやく目を合わせた。


「それは、違うわ。日詠くんは中途半端な仕事は絶対しない人よ。」

『じゃあ、なぜですか?本当の事を教えて下さい。』

不可解なままの事情を知りたい一心である私は目を見開いて奥野先生にも突っかかった。


奥野先生は座ったまま脚を組み、大きく一息ついてから口を開く。

「ウチの病院のシステムは自分が担当している妊婦さんの内診は自分が中心になってやるシステムよ・・・あなた以外の日詠くんの担当妊婦は彼自身がやっているわ。」

『私以外・・・・』

私は半ば放心状態で呟く。


「でもね、あなたがウチの病院に運ばれて来たあの日、日詠くんが・・・自分で何でもやりこなさないと気が済まない日詠くんが私にあなたの内診をやって欲しいと丁寧に頭を下げたの・・・」

『・・・・・・・』

「なんか訳がありそうだったから、詳しくは聞いていないけど・・・産科医が内診をしないって、余程のことだと思うわ。」

目を逸らしたさっきとは異なり、奥野先生は私をじっと見つめながらそう言った。