ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



いや、言い直すのならば、この時の俺は
”現実を受け止めなければならない彼女の前から逃げた”
それが適切な表現なんだろう


『何やってるんだ、俺は。』


隣の外来診察室に伶菜を置き去りにしたまま、逃げ込んだ処置室のドアにもたれかかり、拳を強く握り締めることしかできない自分が本当に情けなかった。



それからどれくらいの時間が経ったんだろう?

「今はあたしがフォローする。でも、今だけだから。」

処置室のドアにもたれたまま放心状態に陥っていた俺。


「逃げ続けることだけは絶対に許さない。」

その俺に厳しい口調で声をかけたのは奥野さんだった。




『奥野さん・・・』

「日詠クンがそんな顔してどうするのよ?」

『・・・・・・・』

「ずっと捜していたんでしょ?伶菜ちゃんのコト。」

『・・・なぜ?なぜそれを知っているんですか?』


俺が伶菜のことを捜しているのを奥野さんが知っていたこと
なんで知っていたのかはずっと聴けずにいたままだった。


「大学時代。」

『大学時代・・・?』

「試験勉強の合間に机に伏せて居眠りしていたアナタがうなされているのを何度かみたわ・・・伶菜、どこだ?って」

『そんな前から・・・』

「ええ、日詠クンの彼女達がお付き合いしても、今ひとつ彼の心が掴み切れないって口を揃えて言うのも、伶菜ちゃんの存在があったからだって・・・そう思えた。」


奥野さんはわかっていたんだ
大学時代、付き合っている女性に心を許しきれていない俺がいたということを

そして、

「だから、日詠クンが伶菜ちゃんをウチの病院へ運び込んだを聴いて、驚いたわ・・・・とうとう見つけ出したんだって。」


ずっと俺の心の中には
伶菜という存在が居続けたことを