「それは確かにそうだけど。でも、部活の先輩命令だったんなら仕方なかったのかなって思う部分もあるし。それに、騙された後のみずほが酷く落ち込んでたのなら私も松永を許さないけど、みずほだって結局松永と仲良くしてるじゃない」

「え?」

「それってつまり、松永に対してはそこまで傷付けられてなかったってことでしょ?」


香がそう言った直後、私はほぼ反射的に


「それは違う!」


と、怒鳴ってしまった。

香に対して、こんな風に怒ったのは初めてかもしれなかった。そもそも、誰に対しても今まで怒鳴るなんて行為をしたことはなかったように思う。

それでも、黙ってなんていられなかった。


「松永君に騙された時、私だって、傷付いた。泣いたし、辛かった。それでもすぐに立ち直って、松永君ともまた話せるようになったのは、篠原君のお陰なの!」


あの時、篠原君が助けてくれたから。篠原君が慰めてくれたから。だから私は前を向くことが出来た。

それなのに、そんな彼のことをそこまで悪く言ってほしくないと思った。


「……じゃあもういいよ! みずほの好きにすれば⁉︎」

「あっ、香……!」

引き止めても振り返ることなく、香は怒って走り去ってしまった。

家はすぐ近所だから、帰宅してから話し合うことも出来たけれど……話し合うより先にお互いはないったん冷静になった方がいいかなと思い、家に行くこともなければ連絡をすることもしなかった。


香と喧嘩したのは、初めてだった。