「何か欲しいものでもあったのか?」

不意に、隣を歩いていた篠原君に声を掛けられた。
しまった。屋台に向かって物欲しそうな顔をしてしまっていたかもしれない。


「う、うん。りんご飴が美味しそうだなって」

「りんご飴? 買う?」

「あ、帰りでいいかな。先に一通り屋台見たいかも」

「そう」


ふと気付いたら、私が屋台に気を取られていた間に、香と松永君が前方で二人きりで話している。
しかも何だか楽しそう。初対面のさっきは少々険悪だったのに、明るい性格の者同士、実は気が合うのかな。

香と松永君が二人で会話しているのは全然いいのだけれど、そうなると私と篠原君は必然的に二人きりになる。

篠原君と二人になるのが嫌な訳ではない。寧ろ、彼は私にとっては、他の男子よりもずっと話しやすい存在。
なぜか彼から感じる懐かしさのようなものの正体は未だに分からないけれど。


ただ、ここ最近の彼との気まずさは、解消された訳ではない。
元々、お互いにお喋りなタイプではないというのも相まって、隣をこうして歩いていても話が弾む訳ではない。
つまらないとか、楽しくないとか、私にとってはそういう訳ではないのだけれど、彼からしたら、そうかもしれない。

そう思うと、隣を歩いているのが私で途端に申し訳なくなる。
そもそも、もしかしたら乗り気ではなかった篠原君を私が強引に誘ってしまったのかもしれない、と今更ながら不安になる。