……でも、少しだけ安心してる。
梓君のことは大好きだからキスは嫌じゃない……けど、まだ心の準備が出来ていなかったから。



その代わりという訳ではないけれど、階段を下りていく途中で、私は思い切って梓君の手をそっと握った。



「え?」

梓君が、少し驚いたような顔でこちらを見る。


自分にしては大胆なこの行動に、私自身も驚いているし、顔が熱い、けど。



「す、少しの間だけ、手繋いでてもいいかな? 階段を下りて、人の気配がしたらすぐ離すから」


そう伝えると、梓君は何も答えなかった。


答えなかったけれど、まるで返事の代わりかのように私の手をギュッと強く握り返してくれた。


彼に強く握られたその手は、階段をおりてからもしばらく、離されることはなかった。