「俺は……」

私が返答するより先に、篠原君の方から口を開いてくれる。


「俺は、お前が今にも泣きそうな顔してこっちに走っていくのが見えたから、気になって……」


泣きそうなことになっていたことに、気付いてくれたんだ……。
いや、気を遣わせてしまった、という表現の方が正しいかもしれない。



「あの、ごめんね……」

「何で泣いてた?」

「それは……」


正直に言っていいものか、分からなくて悩む。
だけど、せっかくこうして追いかけてきてくれたのに何も答えない方が失礼な気がして……私は、ゆっくりと彼の質問に答える。



「そ、その、莉由さん、が……」

「莉由?」


ほら。また名前を呼んだ。私のことは名字で呼ぶのに莉由さんのことは下の名前で呼ぶから、たったそれだけのことでも私は嫉妬してしまう。



「な、仲良いなあって思って……」

「? まあ、悪くはないけど……」


篠原君は、私が言おうとしていることが全く分かっていないみたい。
だったら何とか誤魔化してしまえないかとも思うけれど、ここまで来て嘘を吐いても仕方ない。


「だ、だからっ、妬いてたのっ!」

「……え?」

「あっ、で、でも、仲が良いのは当たり前だよね! 付き合ってたんだし!」

「はい?」

「私、なるべく妬かないように努力するから……!」

「待て待て待て!」

篠原君が、珍しく慌てた様子で私の言葉を遮る。


「誰と誰が付き合ってたって⁉︎」