「悪い、寝てた」

「寝……はっ?」

思わず、間抜けな声が出てしまう。用具入れで寝てしまうなんてこと、あるのだろうか。


「なんか今日の放課後練、松永がやたら絡んできてさ。あ、絡んできたといっても、この間みたく苛立ってた感じじゃなくて、寧ろ何か吹っ切ったように機嫌は良かったんだけど……。でも、絡まれた以上はこっちも負けたくないし、いつも以上に本気で身体動かしてたらさすがに疲れて、ちょっと寝て帰ろうかなと思ってた」

説明を終えると、篠原君はふぁ、と欠伸をしてみせた。

そうだったんだ……。

松永君がそんな様子だったのは、私もコートの外から見ていて気付いていた。

とは言え篠原君ってば、まさか部活後にこんな所で寝てしまうとは。
全然動じてる様子もないし、用務員さんの点検の時間も知っているとは、もしや私、過去に何度か篠原君の存在に気付かずに用具入れの扉の鍵を閉めてしまったことがあるのでは?と心配になる。


ていうか……一時間経てばここから出られるとは言え、その一時間の間、篠原君とこんな狭い場所で二人きり⁉︎



「あっ、し、篠原君! 携帯持ってない⁉︎ 誰かに連絡して、今すぐ助けに来てもらおうよ!」

「携帯、更衣室」

「そ、そっか」

やっぱり、ここで二人きりというのは決定らしい。


ああ、もう。篠原君は普通にしてるのに、私だけこんなに意識してどうするのよ!



「桜井、寒くないか?」