練習が終わり、更衣室でジャージから制服に着替え、体育館の鍵を返却し、玄関へ向かう。

いつもの流れだけれど、いつもの二倍速で行動する。
というのも。


「あ、松永君。お疲れ様」

待ち伏せ……と言うのは微妙な表現ではあるけれど、玄関で松永君を待っていたのだ。


「みずほ? どうした?」

「えっと、松永君を待ってた」

「ふーん。何で?」

外靴に履き替えながら、そう尋ねてくる松永君。
笑顔なんだけど、どこか素っ気ない。
いつもだったら、じゃあ一緒に帰ろうかって明るく言ってくれそうだけれど、今はそんな気配はない。

それでも。


「何か、あった?」


今日、ところどころでいつもと様子が違うように見えたことを伝えた。
何かあるなら話してほしい、とも。


「……あ、無理にって訳ではないんだけどね。私に話しても解決はしないかもだし……でも、一人で溜めておくよりは楽なはずだから」

「……」

「勿論、何もなければそれはそれでいいんだけど……」

「何で?」

「え?」

「何でそんな酷いことが言えるの?」


ーー酷い、こと?



松永君の表情は微笑んでいて、だけど凄く切なくて今にも泣き出しそうな笑顔だった。



「松永君……?」

「何かあったかって? あったよ。みずほが篠原とデートしてた」

「えっ?」


デートって……昨日の?



「あ、あの。昨日の件なら、本当に偶然会っただけで」

「分かってるよ。でも、嫌だった。俺は何度誘っても断られたのに、篠原は偶然でもみずほと休日に過ごせたことも……みずほが、あいつの前で凄く楽しそうに笑ってることも」