「……バカじゃないのっ」

背後からかけられたその言葉に、思わず足を止めた。
その言葉は、文字通り突き放したような言い方ではなく、少し震えていたから。


ゆっくりと振り向くと、香は今にも泣きそうな顔で、肩を震わせ、私のことを見つめていた。
そして。


「私の方がみずほのこと大事だと思ってる! だから本当は、篠原にも松永にも誰にもみずほのこと渡したくないと思ってる!」


近所に響き渡りそうなくらいの声で、香が叫ぶようにそう告げる。



香も、私のことを同じように大切に思ってくれていた……?



「え、で、でも。篠原君にも松永君にも渡したくないって割には、松永君と私をくっつけようとしてきたよね?」

そう尋ねると、香はグッと言葉に詰まる。
そして、ゆっくりと口を開くと。


「……だって、松永は中学の時からたくさんの女子と付き合ってたって聞いてたから、みずほともすぐに別れると思ったんだもの」

「え?」

「勿論、松永がみずほに変な手を出すのは阻止するつもりでいたけど、みずほと松永がくっつけば篠原も諦めると思ったし……そうすれば、みずほは最終的に私のところへ戻ってくると思って……!」


ここ数日の香の言動は、全然香らしくなく、私も何度も戸惑った。


でもそれは全て、私のことを一番の友達だと考えてくれていたからだったんだな……。



「……もし私が誰かと付き合い始めても、一番大切なのは彼氏じゃなくて香だよ」