「どれがいいの、水?」
——声がしたのは、背中のすぐ後ろだった。
その瞬間、心臓がドクッと跳ねた。
聞き覚えのある、落ち着いた低いトーン。
ゆっくり振り返ると
そこに立っていたのは、広瀬先生だった。
「……わっ! せ、先生……っ」
思わず声が裏返る。
こんな夜更けに、しかもこの状態で会うなんて。
「そんなに驚かなくても」
返す言葉もないまま立ち尽くす私を横目に、
先生は自販機にスッと手を伸ばし、
ミネラルウォーターのボタンを押した。
カタン。
「ほら、ちゃんと飲みな」
そう言うと先生は、
杏にペットボトルを差し出した。
