(えっ…)
退院したばかりの杏にとって、
病院に引き返すなんて選択肢は、これっぽっちも考えてなかった。
せっかく退院できたんだから、病院じゃなくても、探せばどこか泊まれるところはあるはず。
ホテルとかネットカフェとか、
近くで空いていそうなところを探せば大丈夫だと伝えようとして、先生の顔を見たときだった。
「…少し熱もあるから、病院なら何かあればすぐ対応できる。気持ちは乗らないかもしれないけど念の為、ね?」
先生の声は優しいけど、冷静だった。
その言葉に胸の奥がギュっと縮まる。
(そんなの嫌、戻りたくない…)
杏が今日という退院の日を
どれだけ待ち望んでいたか、
先生だって分かってるはずなのに。
それにもし再入院なんてしたら、
また皆に心配かけちゃうに決まってる。
そんな思いがつい頭をよぎってしまい
先生になんて返事したらいいか分からなくなる。
言葉の代わりに涙が溢れてきそうになり、
飲み終わったコーヒーの缶を握りしめた。
