先生は杏が診察室に入った時から、


体調が悪そうなことくらい
すぐに気がついていた。



それでもあえて杏自身の口から
体がツラいと伝えてもらったのは、


これまで自分を犠牲にしてまで
我慢してきた杏が、


少しずつ自分の気持ちに素直に
向き合えるようになるための、


先生なりの優しさだった。



「そんな顔しなくて大丈夫、さっきちゃんとできてたから」


そう言ってまた先生は私を励ましてくれる。



「少しでもしんどいと思った時は、我慢しなくて良いから。

遠慮とか迷惑とか何も考えずに、俺に言ってよ」



まだ少し不安はあるけど、
確かに広瀬先生になら、


これからも正直に
自分の気持ちを伝えられるような気がする。



そう、さっきみたいに。



ーー杏は先生の言葉に、コクンと頷いた。



「約束だよ」



そう言うと先生は
杏の頭を優しく撫でた。