その背中が見えなくなったところで私は小声でセリーンに言う。

「やっぱりフォルゲンさんだったね! こんなにすぐに会えるなんて……」
「お知り合いなのですか?」

 後ろからクラヴィスさんの声がして、しまったと思う。
 彼にはどこまで話していいものか迷ってしまう。

「えっと、知り合いというか、」
「以前立ち寄ったフェルクレールトで、彼の噂を耳にしたのだ。とても腕の立つ医者がいたとな」

 セリーンはドゥルスさんのときと同じ説明をした。

「そうでしたか。いえ、私ももしかしたら今の女性を知っていたかもしれません」
「ドゥルスの娘のことか?」

 セリーンが言うとクラヴィスさんは流石に驚いた顔をした。

「なぜ、ドゥルス団長のことを」
「ドゥルスとは昔戦場で共に戦った仲でな、先ほどヴァロールで偶然に出会ったんだ」

 あぁと、思い出したように頷くクラヴィスさん。

「昔の知り合いというのは団長のことだったのですね」
「あぁ。その時に娘がフェルク人の医者と一緒になったと聞いてな」
「ではやはり先ほどの方が……」

 彼が消えた廊下をもう一度見つめながら、クラヴィスさんは続ける。

「いえ私も団長から嫌というほどに聞いてはいましたが、一見お医者様には見えないですね」

 “嫌というほどに”のところがやたらと強調されていたのが少し気になったけれど。

 ――戦にも長けていたから連れていかれた、確かライゼちゃんはそう言っていた。
 きっと大戦中は戦士でもあったのだろう。