と、階段を下りきったセリーンがそんな私の頭にぽんと手を置いた。

「アレの言うことを真に受けることはない」
「え?」
「思った以上の、どうしようもない馬鹿者のようだからな」

 螺旋階段のてっぺんを冷たく見上げながらセリーン。

「カノンが気にすることはない。もっと言ってやっても良かったくらいだ」

 なんだか私よりもご立腹な様子のセリーンに、自然と笑みがこぼれた。

「ありがとう、セリーン。もう大丈夫。それよりね、私もう一度王子を説得しようと思うんだ」

 言いながら私は扉に向かう。

「やっぱり王妃様に笛吹いてもらって王様を治すのが一番良いもんね」
「そうか、そうだな。カノンの思うようにしてみるといい」

 そう言ってくれたセリーンにもう一度ありがとうとお礼を言って、私は扉を開ける。

「お二人とも、もうよろしいのですか?」

 掛かった声は扉の前にいたクラヴィスさん。

「あ、はい。ありがとうございました。あの、王子とアルさんは……」

 廊下に二人の姿は無い。
 クラヴィスさんが王子と一緒にいないのは珍しいなと思っていると、彼は笑顔を崩さずに言った。

「私を置いて行ってしまわれました」

 ……どうやら、そのままここにいろと命じられてしまったよう。

「ティコラトールの話をしていましたので、おそらくは厨房に直接向かわれたのではないかと」

 内心苦笑しつつ、厨房の場所を訊こうとしたその時だ。

「ツェリウス殿下が連れて来られたという医者はあなた方ですか?」

 声のした方を見ると、廊下に二つの人影があった。
 そのうちの一人、長身で体格の良い男性を見て私は目を見開く。

 褐色の肌に漆黒の髪と瞳。そして、どことなく“彼”に似た面影。

(もしかして、この人がフォルゲンさん……!?)