「アホか」

 すぐさま罵声が飛んできた。視線は依然下のまま彼は続ける。

「城に入れるわけねぇだろーが」
「でも、それが一番、」
「そんな簡単に呼べるもんなら、そもそもこんな面倒な状況になってねぇだろうよ」
「…………」

 言い返せなかった。
 確かにその通りだ。王子だって、お母さんと簡単に会えるのならあそこまで王様のことを嫌っていないだろう。

「それにな、」

 そこでラグはやっと顔を上げ、睨むように私を見た。

「これはこの国の問題だ。お前が考えることじゃない。王子が言ってただろう、国王はわかっていて受け入れているんだ。ならオレたち部外者がわざわざどうこうする問題じゃない」
「でも、治せる方法がわかっているのに何もしないなんて」
「いい加減にしろよ。余計なことに首突っ込むなと何度言やいいんだ」

 今までも言われてきた言葉。
 でも、その殆ど怒鳴りつけるような言い方に、先ほどの控えの間での会話が思い出されて――。

「あの王子にあの笛の音が必要なように、オレにはお前の歌が必要なんだ。……今のところな。そのことを忘れんな」

 そこまで言い終えるとラグは再び本に視線を戻した。

「だからお前は、何もせず大人しくしてりゃいいんだよ」

 ぎりと拳を握る。

「カノン」

 セリーンの声が聞こえたけれど、それよりも早く自分でも驚くほどの低い声が口を突いて出ていた。

「さっきは好きにすればいいって、言ったくせに」
「あ?」

 柄悪くラグがこちらを睨み見る。
 そんな彼を負けじと睨み返し、私は怒鳴った。

「私は、ラグの呪いを解く道具じゃないよ!」