部屋を出ていく背中を呆然と見送っていると、王子がぱっと振り向きアルさんを睨んだ。

「何をしている。お前は僕の護衛だろう。行くぞ」
「え? あぁ、そーでしたそーでした」

 アルさんが慌てた様子で王子の後をついて行く。

「ところで殿下。例のティコの飲物はいつ……」
「あー、そうだったな。頼んでみよう」 

 塔の中に響いたアルさんの歓声と螺旋階段を下りていく二つの足音を聞きながら、つい溜め息が漏れてしまった。

「……王子が、あんなに王様のこと嫌ってるなんて思わなかった」
「あぁ。母君を想うが故だろうが、余程許せなかったのだろうな」

 言ってセリーンも短く息を吐いた。

「単に、早く王になりたいだけなんじゃねーか?」

 本からは目を離さずにラグが呆れたふうに言う。

「現国王が死ねば、早く王になれるわけだからな」
「まさかそんな……」

 否定しようとして、言葉に詰まってしまった。
 ――王になったら迎えに行く。そうドナと約束し、王になることを決意したツェリウス王子。

(でもいくらなんでも、そのために自分のお父さんを見殺しにするなんて……)

 そんな恐ろしいことを考える人ではないと思いたかった。
 窓から遠くの空を見つめる。

(こんな時、ドナが居てくれたらな……)

 ドナなら王子にびしっと言ってくれそうだし、王子もドナの言うことなら聞き入れてくれそうだ。
 それとも、いくらドナでも王子のお母さんへの想いには敵わないだろうか。

「――あっ」
「どうした?」

 良いことを思いついた私はセリーンに笑顔で言う。

「王子のお母さんに来てもらえばよくない?」