大分年期の入った本だ。と言ってもこの塔にある本の殆どがそうなのだけれど。
 その表紙に書かれている文字は私には全く読めないものだった。
 螺旋階段を上りながら横目で本の背表紙を見ていて思ったけれど、今回私は全く役に立ちそうにない。

(これまでも役に立ったこと殆ど無いけど……)

 ラグは王子からその本を受け取るとすぐにページを開き目を通し始めた。
 それを横から覗き込みながらアルさんが言う。

「王様の呪いに関しても載ってりゃいいんだけどな」
「やっぱり、あれって呪いですよね!」
「あぁ」

 私の言葉に頷いて、アルさんは王子を見た。

「ですよね、ツェリウス殿下」
「…………」

 私たちの視線を受けた王子はゆっくりと窓の向こうの空を見つめ、ふんと鼻を鳴らした。

「あれは王への罰だ」
「罰?」
「あぁ。僕の母を捨てた罰さ」

 飄々とした表情とは裏腹に、その目の奥には様々な薄暗い感情が揺れていた。

 ――やっぱり王子は、あれが呪いだとわかっていたのだ。

「詳しく話してもらえないですか?」

 アルさんが言うと、王子はラグが黙々と読み進めている本を見下ろした。

「読めばわかると思うが、その書物はこんな伝説から始まっている」

 王子は窓際の壁にもたれかかり、淡々と語り始めた。