でも今それを何に使うのだろう。

 じっと見ていると、王子はそれを扉の中心にある凹みにあてがった。
 その凹みはぴったりと楽器がはまる形になっていて、王子は更に奥へと楽器を押し込む。
 と、ガチャンと言う音がして鍵が開いたのだとわかった。

「それが鍵になっているのか」

 セリーンの驚いた声。
 王子をあの金色のモンスターへと変身させる他に、あの楽器にはこんな役割もあったのだ。

「あの、それって王様やデュックス王子も持っているんですか?」

 訊いてみると、王子は扉を押し開けながら答えてくれた。

「いや、僕はこれひとつしか見たことが無い」

 そして扉から外した笛を再び首へ掛け直した。

 その部屋の中はツンとカビ臭く、まるでサウナの中のように熱が籠っていた。
 ひとつしかない鍵を王子が持っているなら、ここは一ヶ月以上ずっと閉め切ったままだったことになる。

 王子も顔をしかめ、すぐに2つある窓を開けに行った。
 両方の窓が開くと気持ちの良い風が中に吹き込んできた。

「あ、街が見える!」

 そう、窓からは先ほどまでいたヴァロール街のオレンジ屋根が見渡せた。
 ひょっとしてと思いその手前の森を見下ろしてみたけれど、残念ながらビアンカの姿は確認できなかった。

「ひえー、この中の全部確認してくのかよ」

 最後に部屋に入ってきたアルさんが悲鳴じみた声を上げた。
 そう、この部屋も壁一面にずらりと本が並んでいたのである。
 ざっと千冊はあるんじゃないだろうか。
 ラグも眉根を寄せその量を見回している。

「王子はこれ全部読んだんですか?」

 訊くと王子は首を振った。

「まさか。気になったものだけだ」
「例の呪いに関する書物は?」
「これだ」

 王子はすでに手にしていたその本をラグに見せた。