「何代か前の王が集めたんだそうだ」

 口をぽかんと開けたまま視線を廻らしていると、王子がぽつりと言った。

「そして元はただの見張塔だったここを書庫に作り変えたらしい」
「へぇ~。よくもまぁこんなに集まったもんだなぁ」

 本当に。
 世界中の本をここに集めたような量だ。

「まぁ、お蔭でここにいると飽きないからな。僕は大抵ここで時間を潰していた」

 そう続けた王子は少し寂しそうに見えた。

「で、例の書庫はどこなんだ」

 そんな中急かすように訊いたのは勿論ラグ。
 ――ここに来る途中、控えの間に寄って声を掛けると彼はすぐさまソファから立ち上がり私たちについてきた。

(目的の書庫にいよいよ入れるんだもんね……)

 先ほどの控えの間での会話を思い出してしまい慌てて打ち消す。今はそんなことを考えている場合じゃない。
 ラグの問いに、王子は真上を指さした。

「ここの一番上だ。上るぞ」

 私たちは王子に続き螺旋階段を上り始めた。



 王子の言う一番上までは結構な段数があり、最後の一段を上り終えたときには息が上がってしまっていた。
 慣れている王子や体力のあるラグやセリーンは平然としていたけれど、同じように体力のあるはずのアルさんが私よりも辛そうに肩で息をしているのが気になった。

(やっぱりさっきのがまだ……)

「この中だ」

 もう一度アルさんに声を掛けようとしたその時、王子の声。
 確かにそこには扉があった。
 元は見張り塔だったというから、この扉の向こうが見張り部屋だったのだろうか。

 と、王子はおもむろに首の後ろに両手を回した。

(あ!)

 思わず声が出そうになる。

 王子が首から外したのは、ドナがずっと首に掛け別れ際に王子に返していたあのオカリナに似た楽器。
 服に隠れて見えなかったけれど、王子もあれからずっと首にかけていたのだ。