彼のお父さん――この国の王様に何かあったのだ。

 アルさんがすぐに王子の元へ駆け寄り、私もついて行こうと立ち上がり、そこで踏み留まる。

(行って、どうするの?)

 王子の様子から、おそらくは病に伏せっているという王様の容体が急変したのだろう。
 私たちはその王様を助ける医者という名目で此処に居る。
 なのに、王様が一体どんな症状なのか、なんの病なのか何も知らない。訊きもしなかった。
 王様は今、生死の境にいるかもしれないのに。

 ――ここに来て、足が竦んだ。

「みんなも来てくれ!」

 アルさんが振り向きざまに言って、王子と共に部屋を出ていく。

「ここは行くしかないだろうな」

 セリーンも重い溜息をつきながら開いたままの扉に向かう。
 そうだ。助手とはいえここで動かなければ逆に怪しまれてしまう。
 足にぐっと力を入れて、私もセリーンに続いた。でも。

「ラグ?」

 彼はまだソファに座ったままだ。
 少し気まずいながらも呼びかけると、彼はこちらを見もせずにぽつりと言った。

「……オレは行かない方がいい」
「なんで」
「カノン、行くぞ」

 セリーンに呼ばれ、私は仕方なく彼を残し部屋を出た。

 丁度アルさんが廊下の向こうの大きな金色の扉の中に入っていくのが見えた。
 あそこが王様の寝室のようだ。