私はドキドキしながらクストスさんに訊く。

「あの、そのお医者さんてもしかして、えっと……えーっと、あれ?」

 私がその名前を一生懸命思い出そうとしていると、セリーンが助け船を出してくれた。

「確か、フォルゲンだ」
「そう! フォルゲンさん!」

 するとクストスさんがきょとんとした顔をした。

「フォルゲンを知っているのですか?」

 ――やっぱり!

 ブライト君のお兄さんで、ライゼちゃんの婚約者で、大戦後に奴隷としてどこかに連れていかれてしまったという、フォルゲンさん。

 その彼がこの街に――!?

(……あれ、ちょっと待って?)

 気付きたくなかったことに気づいてしまって、興奮した気持ちが急激に冷めていく。
 でも確かめないわけにはいかなくて。 

「あ、あの、妹さんとそのフォルゲンさんて、どういうご関係で……?」
「っかー! 胸糞悪い!」

 この話題に耐え切れないというふうにドゥルスさんが怒鳴る。

「あいつはなあ、俺の可愛い娘をたぶらかしやがったんだ!」
「親父は相手が誰だって嫌なんだろ? 誰がどう見たって二人はとても仲の良い夫婦だよ」

 予想していたこととはいえ、頭の中を鈍器で殴られたような衝撃が襲う。

(フォルゲンさん、一体どういうこと……?)