御者が手綱を取り、ゆっくりと馬車が動きだす。
私は窓から身を乗り出してアルさんたちが見えなくなるまでずっと手を振っていた。彼らもその間ずっと手を振り返してくれていた。
その姿が完全に見えなくなって、私は息を吐きながら席に着く。
「少し、寂しくなっちゃうね」
言うと、窓枠に肘を着き外を眺めていたラグが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「あいつはお人好しが過ぎるんだ。いつもいつも……」
そんなラグを見て、お? と思う。
(もしかして、本当に寂しがってる……?)
と、そのとき隣から急にフフフという小さな含み笑いが聞こえてきて驚く。
「セリーン?」
彼女はアルさんからもらった赤い花をくるくると指で回しながら言った。
「いやスマン。これで少しはあの子に会える機会も増えるかと思うと、ついな」
「増えねぇよ!」
速攻で怒鳴り声が上がって私は苦笑する。
――そうだ。少しの間、元のこの3人と、今はお休み中のブゥとの旅に戻るのだ。
埃っぽい風が窓から入って来て、私はもう一度宮殿のある方を見上げる。
するとあの高い塔が緑の合間から見えてきて、私はその白く美しい姿を目に焼き付けた。
きっとあと何年かすれば、友人もこうしてあの塔を見上げるのだろう。
そのとき彼女の心が、不安よりも期待と喜びに溢れていますように。そう願いながら、私は馬車の心地良い揺れと聞こえてくるパッカパッカという小気味よいリズムに身を任せた。
「My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ Ⅳ」【完】



