「親父! 医者だ、医者を連れてきたぞ!」

 露店の並ぶ賑やかな通りから一歩奥まった路地。
 男がラグを連れて入ったのは、その路地にある2階建ての家だった。

 その高いオレンジ屋根を見上げ改めてぞっとする。
 あの男性の親ならば50代か60代。もっと上の可能性もある。

 私は後ろのセリーンと顔を見合わせ、ごくりと喉を鳴らしてから扉が開いたままのその家に足を踏み入れた。

「馬鹿野郎!」

 途端聞こえてきたそんな怒鳴り声にびくりと肩をすくませる。
 瞬間ラグかと思ったが声が全く違う。
 ラグの背中と、彼をここまで連れて来た男性の背中が見えて、その向こうの部屋からだ。

「医者なんていらねぇって言ってんだろうが!」

 その迫力あるダミ声の主は奥の部屋のベッドに腰かけていた。
 年齢は60代ほどで白髪交じりではあったが予想に反してかなりガタイが良く、私は驚くと共に少しほっとした。
 もっと重症かと思ったがベッドに腰掛けていられるほどだ。それにここまでの大声が出せるのなら、そこまで心配はいらないかもしれない。

「大げさなんだおめえはよ。ちーと足をひねっただけだって言ってんだろ。俺を誰だと思ってんだ」
「ちょっとひねっただけでこんなに腫れないだろう! すまないが、ちょっと見てやってくれないか」

 息子がラグを振り向き申し訳なさそうに言うと父親は睨むようにラグを見上げた。