ビアンカがばさりと翼を広げて周囲に強い風が巻き起こった。
彼女が地面を離れるときいつもならその背中に乗っているのに、今日は彼女を見送らなくてはならない。
こうして見上げると改めて彼女は大きく、そして美しかった。
「さようならビアンカ。本当にありがとう!」
風音の中、そう叫んだときだった。
彼女が薄く口を開ける瞬間を初めて見た。
“――アリガトウ――”
そんな柔らかな声が、聞こえた気がした。
彼女の姿が空の色に溶けていくのを見送りながら私はぽつりと呟いた。
「……私、今ビアンカの声が聞こえた気がした」
「私もだ」
「俺も」
「……」
「ぶ」
私たちは呆然と顔を見合わせてから、もう一度高い空を見上げた。
もうそこに彼女の姿は無かったけれど、かわりに白く長い雲が一本悠々と浮いているのを見て、私は笑顔で大きく手を振った。



