「すみません、ちょっと珍しかったもので」

 顔が赤いのを自覚しながら言うと、男の人はハハハと笑った。

「いい音だろ? ウエウエティルは」
「はい、とても。それ、ウエウエティルっていうんですね」

 なんだか可愛らしい名前だ。

「あぁ。俺の自慢の相棒だ。でも今度は踊りも見てやってくれよな」

 そう指さした先では先ほどの踊り子の女性がマラカスを持った男性と話をしていて、でもその彼女ともばっちり目が合ってしまった。

「何だい、アンタ私の踊りを見ていなかったのかい?」

 妖艶な美女という言葉がぴったりな女性に迫力ある声で言われ更に慌てる。

「いえ、あの」
「今日は何度かここで踊るからね、その時にはちゃんと見ておくれよ!」

 そしてパチンっとウインクしてくれた。
 怒ってしまったわけではないようでほっとする。
 でもこの後すぐにこの街を去ってしまう私は曖昧な愛想笑いを返すことしか出来なかった。

 と、そんな時だ。

「誰か! 誰か医者はいないかー!」

 聞こえてきたその大声に皆の視線が集中する。
 広場に向かって駆けてくる男性。彼が悲痛に叫んだ。

「親父が屋根から落ちちまったんだ! 誰か、親父を助けてくれー!」