「だから自ら身を引いたとでも言うのか? 最低男のただの言い訳にしか聞こえんな」
再び飛んできた辛辣な言葉に、フォルゲンさんは苦笑する。
「そう、だな。私は昔から最低な男だ。……さっき言っただろう。私はライゼ様の傷を治せる力がたまらなく羨ましかったと」
傷を治せる力。……ライゼちゃんの、神導術士としての力。
昔を懐かしむように、フォルゲンさんは続けた。
「一度その気持ちをブライトに零したことがあった。そうしたらあいつは酷く怒ってね。あんなに怒ったブライトを見るのはあれが初めてだった」
「ブライト君が?」
彼は頷く。
「ブライトは、ライゼ様の命を削るあの力を良く思っていなかった。いや、憎んですらいたのかもしれない。だからその力を羨んだ私が許せなかったのだろう」
(ブライト君……)
重傷を負いながら、その傷を治そうとしたライゼちゃんを頑なに拒んでいた彼を思い出す。
「そのときに思ったのだ。私よりも、ブライトの方がライゼ様に相応しいと……」
フォルゲンさんが微笑みを浮かべる。
「私がこのまま帰らなければ、ブライトがライゼ様の夫に選ばれるだろう。それがあの二人にとって一番良いのだ」
「でも、」
「それに私は、リトゥースを愛してしまった」
その頑なな声音にどくんと胸が鳴る。
(愛して……)
「だからもう、私は帰れないのだよ」
そして彼はもう一度ぎこちなく、笑った。
――この地で愛する人を見つけてしまったから。
(だから、帰れない……)
セリーンももう、何も言わなかった。



