……今まで信じてきたものが一気に崩れたのだ。無理もない。
 でもきっと、王様からその真実を告げられても、王子は信じなかったんじゃないだろうか。
 こうしてお母さんの口から言われなければ、きっと、信じることが出来なかったんじゃないだろうか……。

 そんな息子の金の髪を優しく撫で、お母さんは言う。

「ごめんよ。私の覚悟が足りなかったばっかりに、お前には本当に辛い思いをさせたね」

 王子は何も言えないようだった。

(王子……)

 ここからその伏せられた顔は見えなくて、大丈夫だろうかと不安になる。

「わかったろう、私には城に行く資格がないんだよ。……王妃様にも酷いことをしてしまったしね」

 ゆっくりと王子が顔を上げる。

「産まれた子が金髪でないとわかったとき、王妃様は一体どんな気持ちだったろうと思ってね。……そう考えたら逃げたことをたまらなく後悔したよ」

 ――そうだ。これまで王子や王様、王子のお母さんのことばかり考えていたけれど。

 暗い部屋で王様を看ていた、あのやつれた女性の姿が頭を過ぎる。
 王の証しである金髪の子が生まれなかったとき、彼女は……王妃様ははどう思っただろう。
 ツェリウス王子の存在を知ったとき、どれだけショックだっただろう。

 知らず、強く胸元を握っていた。

「だからね。この笛を吹いてあの人の病を治すことが出来るのはもう私じゃない。今あの人の傍にいる、王妃様なんだよ」