(私も、びっくりしたけど)

 彼女はそんな息子にふっと微笑み、言い直した。

「いや、行けないんだよ、私は」
「――か、母さんが、あいつに会いたくないのはわかってる。僕だって本当は会わせたくない。でも、あいつだけじゃなくて」

 ぽん、とそこまで言った王子の頭に手が乗る。

「聞いたよ。とばっちりを受けて倒れちまった人がいるんだろう?」
「そ、そうなんだ。その者を助けるためにも、まずは王をなんとかしなきゃならなくて。そのためには母さんの力が必要なんだ」
「それでもね、悪いけど、私は城へは行けないよ」

 意志の強い眼差しとその声音に王子はゆっくりと肩を落としていく。

「なんで」

 力無く訊いた王子に、お母さんはもう一度笑った。

(なんだか、悲しげな笑み……)

「私はね、あの人に会う資格がないんだよ」

 その言葉に王子は怒りを露わにする。

「資格なんて……! だってあいつが母さんを捨てたから」
「おやめ!」

 厳しい声に、王子はびくりと身体を震わせた。

「……あの人を、“あいつ”なんて呼ぶんじゃない」
「だって、」

 再び顔を歪める王子。
 するとお母さんはふうと短く息を吐き、もう一度彼の頭を撫でた。

「ごめん。それも全部私のせいだね。――お前は、思い違いをしているよ」
「え?」
「私はあの人に捨てられたんじゃない。私が、あの人から逃げたんだ」

 王子の顔にゆっくりと衝撃が走るのを私は見ていた。