(王子、良かったですね)

 親子の感動の再会に思わずもらい泣きしそうになっていると。

「おい、何してんだ。早く出ろ」

 足元からそんな低い声が聞こえてきて、私は慌てて謝りバタバタとそこから這い出る。
 するとその音で気が付いたのが、彼女がこちらを見た。

「おや、アンタは確か……」

 立ち上がりながら私は答える。

「あ、はい! 昼間、踊りを」
「楽器の方ばかり見て私の踊りを全く見ていなかった娘だね」

 そう言ってにっと笑った彼女に私はあの時と同じようにハハと乾いた笑みを返す。
 次にその視線は私の後ろ、ラグに留まった。

「アンタも確か一緒にいた、お医者さまだったっけ?」
「母さん、この者たちは今僕の護衛なんだ」
「護衛?」

 彼女の顔色が変わった。

「そういや、あの赤毛の娘もそんなことを言っていたけど、お前命を狙われてるってのは本当なのかい?」

 しかし王子は首を振う。

「今はその話はいいんだ。僕は母さんにお願いがあって会いに来たんだ」

 こちらも力が入る。
 王子はまっすぐに母親を見つめ、続けた。

「王を助けるために、僕と一緒に城に来て欲しいんだ」
「私は行かないよ」
「え」

 間髪を入れずに答えた彼女に、王子は呆けたような声を上げた。
 まさかこんなに早く、こんなにきっぱりと断られるとは思わなかったのだろう。